ライセンシーの承諾に関する法改正 〜デジタル技術の進展に伴う特許権のライセンス形態の複雑化に対応!〜
ライセンシーと職務発明による通常実施権者の承諾の要件の見直し
図 特許庁「資料2 訂正審判等における通常実施権者の承諾の要件の見直し」 P9
令和3年(2021年)5月21日に公布された特許法等の一部を改正する法律第42号において、特許法上の次の手続における通常実施権者の承諾(法律上の承諾)が不要となります。
- 特許権の放棄
- 訂正審判の請求
- 訂正請求
施行日:令和3年(2021年)5月21日から起算して1年以内 → 令和4年(2022年)4月1日(令和3年(2021年)9月14日閣議決定)
日本国
特許法上承諾を必要とする者って?
上図では「特許法上承諾を必要する者」が記載されています(上図の列方向)。現行法(本改正施行後は旧法)における特許法上承諾を必要する者は、
(1) 許諾による通常実施権者(又は仮通常実施権者)、
許諾による通常実施権者とは?
特許権者が他人に対し、その特許発明についてライセンスをすることができます。特許発明とは、特許を受けている発明をいいます。そのライセンスに関する契約を特許権者と締結することで、特許権者から差止めとか損害賠償請求を受けないという地位•••もっと見る
仮通常実施権とは?
上述のように、通常実施権は、特許を受けている発明についてライセンスを受け、その発明の実施をする権利であると説明しました。では、まだ特許を受けていない発明についてライセンス(特許出願段階におけるライセンス)を受けることはできないの•••もっと見る
専用実施権者とは?
ライセンスのなかには、機能や地域、時期を設定し、特許庁の原簿に登録することによって発生する権利もあります。これを「専用実施権」といいます。特許権者により設定された権利者を「専用実施権者」といいます(上図の右から第2列目)。 •••もっと見る
質権者とは?
特許権、専用実施権、通常実施権を目的として質権を設定することができます。質権を設定してもらう債権者を質権者といいます(上図の右から第1列目)。
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法改正の趣旨
- 多数の通常実施権者がいる場合に、訂正の都度すべての通常実施権者の承諾を得ることは大きな負担です。ライセンス態様等の変化から、特許権の放棄においてすべての通常実施権者の承諾を得ることが現実的に困難なケースが増大しているといった懸念があります。
- 無効審判における訂正の請求および侵害訴訟における訂正の再抗弁は特許権者にとっての重要な防御手段となっているところ、通常実施権者の承諾が得られないことにより特許権者の防御手段が実質的に奪われることは問題です。
- 特許請求の範囲の減縮等の訂正により権利範囲が狭くなり通常実施権者の実施製品が権利範囲から外れたとしても、または特許権が放棄されたとしても、通常実施権者は引き続き実施が可能ですから、訂正や放棄により通常実施権者に不利益は生じないと考えられます。職務発明に基づく通常実施権の承諾も同様です。また、法律上の承諾を不要としても、契約で対応可能であると考えられます。
- 法律上の承諾が必要であるという同様の制度は韓国にしかなく、海外の通常実施権者に対して訂正の際に承諾が必要であることを理解してもらうことには煩雑な作業が伴います。
その他の手続について
[1]特許法上のその他の手続、[2]実用新案法上の手続、[3]意匠法上の手続および[4]商標法上の手続については、次のとおりです。
[1]特許法上のその他の手続
上記1.~3.の3つの手続(上図では「承諾が必要とされる行為」の第1行目から第3行目まで)における専用実施権者の法律上の承諾、質権者の法律上の承諾は、引き続き必要となります(上図の第1行目から第3行目までの右側2列)。専用実施権者も•••もっと見る
[2]実用新案法上の手続
実用新案法上の次の手続における通常実施権者の承諾(法律上の承諾)が不要になります。
- 実用新案権の放棄
- 実用新案法における訂正
[3]意匠法上の手続
意匠法上の次の手続における通常実施権者の承諾(法律上の承諾)が不要になります。
- 意匠権の放棄
[4]商標法上の手続
商標法では、商標権の放棄における通常使用権者の承諾(法律上の承諾)は、引き続き必要とすることが適当であるとされました。特許法が改正されることから、商標法による準用条文についての所要の手当てがなされます(改正商標法第34条の2(新設•••もっと見る
参考文献:
- 特許庁「産業構造審議会 知的財産分科会 第42回特許制度小委員会 資料2 訂正審判等における通常実施権者の承諾の要件の見直し」及び議事録 令和2年(2020年)10月30日
- 特許庁「平成20年法律改正(平成20年法律第16号)解説書 第1章 通常実施権等登録制度の見直し」 平成21年(2009年)2月5日]
- 特許庁「産業構造審議会 知的財産分科会 第6回商標制度小委員会 資料5 特許法改正論点の商標法への波及について」 令和2年(2020年)11月5日
本稿は、令和3年(2021年)7月28日現在の情報に基づきます。
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